お世話になっております。nanaです。
1月に集中して仕込まれた醪たちが、上槽や濾過、瓶詰めを迎えるこの季節。2月が正念場とは聞いているのですが、筆者にとってはまだまだ毎日新しいことを教わっては振り返り、聞き返す事に必死で、脆くも毎度正念場のような気持ちですが、同時に日本酒を好きなだけ毎日考えて良い環境に、幸せも噛み締めています。
今回はそんな筆者の蔵人生活のとある1日をご紹介します。この記事をきっかけに、酒造りの仕事に興味関心を持っている方々の不安や疑問を、少しでも取り除くことができれば幸いです。(一日の仕事内容はスケジュールによって異なります)
張り込み
5時起床。歯を磨き、白湯を一杯飲んでさっと作業場に向かい、昨日洗米した酒米を蒸す準備を行います。この作業のことを「張り込み」と言い、先輩と2人がかりでコンテナに入っている米を甑(こしき)に投入していきます。この際、他の蔵人たちも検温・分析、麹の出来具合の確認などに各々の仕事に分かれて早朝から皆キビキビ動いています。
張り込みを終えたらハシゴを神棚へ持っていき、榊(サカキ)の水を変え、おちょこに新しいお酒を注ぎ、今日も松尾様にご挨拶。ここでは1番若い人が毎日行う仕事のため、欠かさず私が担当しております。「いつも安全を見守ってくださりありがとうございます」と感謝の気持ちを込め、時にコソッと黒胡椒お煎餅やキットカットをお供えして1日の始まりを迎えます。
仕込みの下準備・盛り
ラジオ体操と本日の仕事内容を全体で確認後、前日に出来上がって乾燥させていた麹を今日の仕込みタンクへ運びます。酒母、水、麹が入った水麹を作るので、ハシゴを登り降りしながらまず麹を入れ、その後ホースで仕込み水を送ります。使う機械の準備と、貯水タンクから仕込み水を送り出すことが私の担当なのですが、貯水タンクから仕込みタンクまでの距離が長いため、片付ける時に長いホースを巻くのが個人的に大変。毎日ホースを巻く機会があるのにも関わらず、今だに長いホースは早く巻けないので苦戦中です。。杜氏に「捻れがなく、大きく巻くように」と言われてるのですが、なぜか小さくなってしまうし、いまだに捻れも残って最初から巻き直すこともしばしば。でもちゃんと巻けるまで諦めません!
また、同時間に麹室に入り、昨日蒸して引き込んだ麹米をほぐし、別の床へ運んで行く「盛り」の作業を行います。室内は約30度。6時から汗だくになって米をほぐすのですが、昨日見た蒸し米に菌糸が入って少し破精込んだ様子が肉眼でも見れるようになってくる時ですので、「麹菌の育成が始まったんだな〜」ととってもワクワクします。良い麹ができますように…!
掃除・放冷機周りの準備
仕込みの準備と盛りを終えたら、蔵人みんなで手分けして製造場を1階から3階まで綺麗に床掃除。この時に杜氏は醪の分析を行ったり、釜屋さんは8時にお米が蒸し上がるように頃合いを見て蒸きょうし始めます。私は主に2階を掃除して、放冷機や麻布を準備しています。8時の蒸し上がりまで少し時間があれば、朝ごはんを軽く食べたり、甑の布が取れないよう確認と同時に蒸気や香りを嗅いだりしています。蒸しの状況は蒸気の厚み、手触り感、香りから見て取れるのですが、今の私は手触り感と香りの変化にほんの少し気づけたかな、くらいです。
晴れの日は蔵の屋上に出て、少しの間遠くに見える山の景色をこそっと眺めています。丁度山頂あたりから日の出が見え、パッと明るく雪を照らした景色に「今日も朝が来た!」と毎度心躍らせて仕事に戻ります。
仕込み開始
8時と同時に蒸気噴射口を止め、甑に溜まっていたお湯を抜いたら、蒸米を甑から出して放冷機の投入口に下ろします。蒸米を触った感触や食感で外硬内軟になっているかどうかを確認する時が、個人的には一番緊張します。と言いますのも、「一麹、二酛、三造り」というおいしい酒を作る上で最も重要な工程を表す言葉がありますが、元を辿れば、洗米時の吸水率や蒸し具合が、麹、酛造りにしても以後の酒造りの良し悪しを最も決める要因だと、杜氏さんや上原 浩先生著書「日本酒と私」から教えてもらい、私にとってはこの考え方の方がしっくりするからです。
本「日本酒と私」は現在廃稿となっていますが、同著者の「純米酒 匠の技と伝統」にてほぼ同じ技術的な内容が書かれています。是非チェックしてみてください。
仕込み後、使った道具を洗っていきます。小道具から放冷機まで毎日洗いますので、洗い物だけでも30分弱くらいかかるかな。でも、日々清潔な環境を保ちながら酒造りをしている証拠だと思いますので、抜かりなく行います!仕込みがひと段落したら、数十分間休憩を挟み、その後醪の検温を行ったり、午後からの洗米の準備を途中まで行ったり、麹米に必要なもやし(麹を作るもとの菌のこと)を振りかけたりと、それぞれの仕事に取り掛かります。
お昼休み
早朝から体を動かして腹ペコ。お昼ご飯はありがたいことに、まかないさんが作ってくださいます。今日は親子丼に、コロッケに、グラタンパスタにお味噌汁です。
え…多くない??
日替わりのまかないさんによってメニューも量も様々ですが、揚げ物や肉系が多い印象です。蔵の男性にとってもかなりボリューミーな量。食後は小一時間自由時間があり、蔵人は各々の部屋でお昼寝したりして好きな時間を過ごしています。私も含め皆さん寝ているのか、「お昼休憩後」のことを「寝起き後」と言います。早朝から体力仕事ですので皆さんお疲れのご様子ですが、食べた分体を動かすのでプラマイ0にきっとなっているはず。
洗米
お昼後は早速洗米に取り掛かります。まずは仕込みに必要な酒米の量を計量するため、米袋を計量器まで運ぶのですが、1袋30kg。初めの頃は重さに耐えきれず、持ち上げるだけでも時間がかかりました。
でも大丈夫。体力は後からついてくる筋肉が解決してくれます。
(当酒蔵入社1ヶ月前、急いで体力作りをするためにジムに週1で通った時に筋肉痛があったおかげもあり、腕周りの筋肉痛は特になかったのですが、やっぱり30kgは重い。)
早速洗米していきます。米糠を取り除き、目標の吸水率まで浸漬するのですが、米の吸水率は後の麹作りや醪にも大きく影響しますので毎回が一発勝負なので、特に精米歩合が低い酒米の時は一層緊張感が走ります。1%の吸水率の違いで蒸した時の手触りも、麹作りの際の扱い方が変わってきますので、浸漬時間は目標吸水率に極力近づけるために1秒単位まで米の表面を見ながら細かく調整します。洗米が終わったら、片付けと明日の張り込みの準備をします。洗米が上手くいって、とりあえずほっと一安心。
出麹
2日前に蒸し上げて麹室に引き込んだ麹米ができあがりました。麹の表面や、品のある栗香の甘い香りと噛んで口に広がる味などを見て、完成した麹を乾燥室に運びます。良い麹が出来上がったと思うとここでも安堵します。
夜中も睡眠欲に関わらず、数時間おきに起きて麹の様子を確認して湿度・室温の設定を細かく行うため、確かに辛い仕事ではあるのですが、母性と言うのでしょうか。たまに夜勤の麹当番になって先輩に指導いただきながらお世話した時は、出麹のタイミングで「次の工程にいってらっしゃい!」とほんの少し儚げな気持ちがよぎったり、素敵なラベルを身にまとった姿には、少しでも私の手で命を吹き込めたお酒として誇らしい気持ちになったりします。
夕食
ありがたいことに、夕飯もまかない料理を頂きます。今夜は焼き鳥。晩酌のお酒には花垣の本醸造や超辛純米をいただきます。お米は食べたい人がセルフで炊飯器からよそいます。お昼ご飯は食べた人からすぐに自分の部屋に戻ってしまう私たちですが、夕飯は1時間弱くらいゆったり団欒しながら頂いています。(初めての頃、お燗を湯呑みに注ぐのはびっくりしました。)
夕飯後は各自お風呂に入って自由な時間を過ごしたり、夜の醪の検温や麹のお世話をしたりして、一日が終わります。
いかがでしたでしょうか。
2年前の丁度この時期にときめいた醸造家の「かっこいい」姿を模索し始めまだ5ヶ月。麹の育成や醪の味の変化など、気になることがあればいつでも麹室、仕込みタンクなどの様子も見て、嗅いで、味見をしに来て良いよ、と言ってくれる環境でお酒造りを学んでいます。全ての工程に関わりたいだけ関われる環境のこの酒造は、今でも「造り手の目線から日本酒を知る小さな一歩の選択肢」として、選んでよかったなと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました!今日も素敵な一日をお過ごしください。
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