【体験記】蔵人1年目が感じた酒造りで辛かったこと3選

日本酒を知る

やりがい十二分に感じることができる酒造り。

しかし、どの職業でも同じように、酒造りのお仕事にも辛いことがあります。もしかしたら、人によっては辛いことの方が容易に想像できるお仕事なのではないでしょうか。

筆者も蔵人になる前、周りの方々から応援はされつつも、ご心配いただいたことも多々ありました。

本記事では、実際に一造り経験をした中で、酒造りの仕事で実際に辛かったこと3選をお伝えします。

仕事のやりがいについては、以下の記事でご紹介しておりますので、ぜひご覧ください!

酒造りの魅力についての記事はこちら

体力と忍耐の勝負

一番想像のつきやすい辛いこと堂々のNo.1。

役職によって異なりますが、朝5:00~5:30くらいから汗をかく力仕事が続きます。日中は洗米で使う30kgのお米を何袋も運んだり、夜は麹の状態に応じて室温・湿度環境を調整するために住み込みでスタンバイ。熟練者になってくると麹の状貌が予測できて真夜中頻繁に起きて麹室へ確認しに行くことはあまりないようですが、終盤になって1人で麹造りの夜勤を任していただいた筆者は、不安で1時間に1回のペースでアラームを設定しまくり、その度に麹の様子を見に行っていました。麹が出すサインを敏感にキャッチして、麹室の環境設定をこのタイミングで変える判断さえその都度勇気が入りますが、朝方栗香が少しずつ出てきたときにやっと少し安堵します。

そんな酒造りが、秋から春頃まで他の蔵人達と協力し合い行われます。

そのため、毎回全ての工程が本番で緊張感のある中、続けられる体力と忍耐力が必要です

自分なりのリフレッシュ方法を見つけよう

お酒造りに毎日苦労もやりがいも感じる一方、やっぱり繁忙期になると体も疲れます。

そのため、酒造りの上で自分なりのリフレッシュ方法を持っておくのがGood。

目覚まし時計をセットせずに好きなだけ寝過ごすのもよし。図書館でもっと日本酒に没頭するのもよし。私の場合、温泉に行ったり、現地で知り合った友達の家に泊まって好きな日本酒を飲んだりしてリフレッシュしていました。蔵の頭が温泉好きなのもあり、仕事終わりにもよく温泉に連れて行ってもらったからか、個人的にも都内で生活していた時よりも頻繁に温泉へ行くようになりました。自分なりのリフレッシュをした後は、仕事前の準備体操で体が軽くなっているのがわかります。

杜氏へ学びにいく姿勢

筆者が杜氏に質問しようとしているが、怖くて戸惑っている様子。

日本酒の製造工程は、一見すると同じ単純作業の繰り返し。洗米、蒸し、製麹、酒母、仕込み、上槽など、計画したスケジュール通り従えば、正直蔵人は頭を働かせなくとも仕事ができてしまいます。

しかしながら、洗米時の目標給水率で設定した値1つとっても、前段階で出来上がった酒母の面や蒸し上がりの状貌など、本当に様々な理由を考慮して細く設定しています。そんな目標給水率に対して何も疑問を持たずに書いている通りに従うか、そもそも「なぜ目標給水率をこのパーセンテージに設定したのか」と一つ一つの工程疑問を抱いて先輩に質問するかで、酒造り複雑さに気づく機会の数に違いが出てきます

偉そうに書いておきながら「筆者は毎回質問できていたのか!」と言われると、私自身悔いが残っているからこそ、「辛かったこと」として挙げさせて頂いた次第です。

先輩の教え方は酒蔵によりけりですが、私の杜氏はどちらかというと「背中を見て学べ」の本人も教えること苦手意識を持つ方でした。

質問をすれば毎度返答してくださいますが、教科書に書いている内容については基本的面倒臭がられます。そんな杜氏の「自分からは教えない」意図としては、わからないなりに色んな工程に触れてみて、そのわからないを先輩ではなく、まずは自分の頭を使って調べるエネルギーに頼るのが先ということを理解させるためだったんだな、と今は思います。杜氏が新米蔵人だった当時も、前杜氏の麹の仕事にしつこいほど張り付いてはよくわからずも観察し、その後自分でなんでこの作業をしているのか逐一調べていたのだそう。「今疑問に思ったことは周りに聞く方が本読むより早いじゃん!」と思っていた私。でも、それだと全体の道理を俯瞰できず、質問した単体の答えしか見えません。人生そう簡単には教えてくれません。苦笑

それでも、わからないものはわかりません

私は一度質問し始めたら、理解できるまで良くも悪くもしつこく聞いてしまう性格です。私の情報処理能力の乏しさがほぼ原因ですが、一度聞いても理解できず、何度も聞いては杜氏も呆れた口調の返答になっていきました。

「今度また聞いたら怒られるかなぁ…」と怖くなって次第に疑問に思っても抑えるようになり、酒造り期間の貴重な学びの機会を逃してしまった時期もありました。

聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥

酒造りが終わった後に振り返ると、1番の悔いはやっぱり聞かなかった時のこと。

申し訳ないくらい粘り強く聞いて愛想疲れても、時間が経つと相手もケロッと通常通り接してくれるものです。

洗剤の種類の使い分けや、道具の素材など、小さなことでも必ず理由がありますので、すぐに聞ける雰囲気でしたらその場で聞くのがベスト。酒造りの全体の流れや原理的な部分は教科書を見て、後日まとめて質問するのも良いと思います。

そして気になる工程は、杜氏や尊敬する先輩の仕事の様子をわからなくとも張り付くように見に行くのが良いかもしれません。向上心をもって自ら学ぶ姿勢に、嫌な気持ちになる人はきっといないはず。仮にそうだとしても、その時間は振り返ると一瞬です。

「最初はわからないのが当たり前」の気持ちで、一緒に頑張りましょう

減点評価で行う唎酒

減点評価の唎酒に辛さを感じている筆者。

蔵人として働き始めるまで知らなかったことなのですが、酒造業界では出来上がった日本酒を減点評価します。

一般的に3点法や5点法という評価をしているのですが、1を最良として、欠点があれば順に数字を上げていきます。鑑評会の種類よっても評価するポイントはさまざまですが、酸・甘・苦・渋のバランスだったり、ムレ・ダレ、カビ臭、4VGなどと言われるクセやオフフレーバーがないかを判断し、少しでも感じれば逐一記載し数字をつけていきます。

私の蔵も、出来上がったお酒は製造部全員で全て唎酒を行いますが、時間をかけて造ってきたものを減点する時はメンタル的に未だに慣れず少し辛いです。

「良し悪し」と「好き嫌い」を分けよう

「ワインは加点法、日本酒は減点法」として、日本酒の評価方法に疑問を抱く方もいると思います

オフフレーバーがあっても、そのオフフレーバーこそ良い!という方もいらっしゃいますし、人それぞれの趣味嗜好、味の感じ方があって当然です。

しかし、”工業製品”として醸造技術を評価する場合であれば、減点法に帰着するのではないでしょうか。技術上、「ゴム臭の香りがするけど、そこがいいよね。」という評価はできませんよね。

杜氏曰く、全国新酒鑑評会は特にこの減点法の観点では他のコンテストに比べ、比較的フラットに技術面を審査しています。そのため、この鑑評会が”提示した規格”に削ぐわない旨みが乗った酒や熟成酒は、このコンテストでは評価されにくいため、意図的に出品しないという蔵も数多く存在します。

つまり、コンテストによって規格があり、それに添うお酒はそれぞれということです

ですので、あくまで醸造者として唎酒する際、自分の趣味嗜好の「好き嫌い」と技術評価での「良し悪し」を一歩引いて心の中で区別できたとき、個人的に少し楽に唎酒できていると感じます。

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