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日本酒造りにかかせない原料であるお米。実は、普段私たちが食べているご飯米とは異なる、お酒造りに適した「酒米(酒造好適米)」で日本酒は造られていることをご存知でしょうか。
今回は、そんな日本酒に使われる酒米の特徴や、代表的な酒米を解説していきます。きっとこの記事を通して、日本酒造りにはなぜご飯米ではなく、酒米が必要なのかを知ることができます。
それでは早速、酒米の特徴を読み解いていきましょう。
酒米に適した米とは?
心白発現率が高い
日本酒造りに適したお米の条件の1つ目は、お米の内部に「心白」があることです。
心白(しんぱく)とは、お米の内部にある白色不透明な部分のことです。でんぷんの隙間から多くの光が乱反射するため、心白の部分は白く濁って見えるのです。隙間があると吸水性が向上し、でんぷんを糖に分解する麹菌の菌糸がお米の内部に浸透しやすくなるので、酒母やもろみで溶けやすく、アルコール発酵が進みやすくなります。このように、水がお米の内部に浸透して中が柔らかく、周りが硬い「外硬内軟」の状態が、醸す上でベストな状態なのです。そんな心白の発現率は、飯米よりも酒米の方が高めです。そのため、心白があることは酒米には必要不可欠です。
心白の適正サイズは日本酒造りによって様々
とはいえ、心白が大きすぎると、精米(お米を削ること)する時に砕けやすいため、吟醸酒、大吟醸酒のようにお米をたくさん削って造るとなると、精米段階で心拍が剥き出しになってしまい、早く溶け過ぎてしまいます。心白を持つことは重要ですが、適切な大きさはどんな日本酒を造るかによって異なります。
心白の理想な形
お米を横にして割った横断面を見ると、心白の形が「線状」「点状」「球状」など、さまざまな形状があることがわかります。球形や楕円形であるほど、たくさんお米を削る時には砕けやすくなります。様々な形の中でも線状の心白は、精米するときに心白が剥き出しになることもありますが、お米の表面から心白までの不均一さが、アルコール発酵する速度をうまくコントロールできるといいます。
そんな線状の心白を持ちやすい酒米は山田錦、雄町、渡船(山田錦の親)などがありますが、ごくわずかです。また、線状心白の形質は交配しても子孫に現れにくく、大変貴重な形質の1つと言われています。
低タンパク質、低脂質
お米の表面には、タンパク質や脂質を豊富に含んだデンプン層があります。炊いてご飯米として食べる時にはその層が旨みとなりますが、日本酒造りでは雑味の原因となってしまいます。タンパク質が多いと、吸水性が鈍ってしまい、麹がうまく蒸米の消化できなくなってしまいます。脂質が多いと、日本酒の香気成分の作りを妨げたり、酸化を促し日本酒本来の香りをうまく作ることができなくなってしまいます。そのため、酒米は低タンパク・低脂質であるお米が良いとされています。
大きくて丈夫
3つ目はお米の粒が大きくて丈夫なことです。酒米は一般的に飯米よりも多く削ります。精米することで華やかな香りや味わいを高めるなど、削ったお米は各蔵独自の表現を醸す1つの鍵となります。つまり、精米時に砕けることなく、希望の精米歩合にするためには、大粒で丈夫なお米である必要があります。それゆえ、大粒なお米を持つ酒米は、飯米よりも稲穂も高く、倒れやすいなどの栽培の難しさもあり、飯米の取引価格よりも高めとなっています。
代表的な酒米5選
酒米の生産量はお米の全生産量のわずか2%しかなく、山田錦と五百万石が酒米全体の作付け面積の60%を占めています。現在、酒米と指定されている品種数は100種類ほど存在し、同じ品種でも栽培する土地の条件によって様々な品質に変化します。また、地酒ブームや地産地消の活動によって、各地域ならではの新しい品種も誕生しています。ここではそんな酒米の中でも、代表的な酒米を5選紹介します。
酒米の王様 「山田錦」
「酒米の王様」と呼ばれるほどの酒造好適米のシェアを誇る酒米。心白の発現率も80%とかなり高く、低タンパク質で米が柔らかく、小さい線状心白を持つため、高品質な麹を作りやすく酒造りには最高な条件が揃っている特徴を持っています。倒伏しやすく、耐病性が低いため栽培が難しいという欠点はありますが、好条件が揃う山田錦は、個性を主張のではなく、造り手の言うことを実直に従う優等生なお米のため、吟醸酒ブーム(1980〜90年)で一躍有名となり、2001年には生産量で五百万石を抜き、作付け面積で酒造好適米代1位となっています。
すっきり淡麗の代名詞 「五百万石」
1938年、「菊水」と「新200号」を交配し開発された新潟県出身の酒米。 「五百万石」とは、新潟県の米の生産量が約75万トン(=500万石。1石は約150kgに相当する古い単位)に達したことを記念して命名された名前で、他の酒造好適米に比べ、早生で収穫時期が比較的早く、全国各地で栽培が可能だったため、2001年に山田錦に抜かれるまでの約40年間、作付け面積が最も多い酒米でした。しかし、高品質に精米するのが難しく、心白が大きいため吟醸酒や大吟醸酒には向きません。すっきり淡麗タイプの酒造りでは、相性ぴったりな酒米です。
北アルプスのように美しい心白「美山錦」
長野県の美しい自然の中で作られたお米で、美しい山の頂上のように白い心白を持つことから名付けられた酒米、美山錦。1978年に長野県のたかね錦で行われた放射線治療によって生まれた突然変異種です。耐寒性が強く寒冷地でも栽培できるため、長野県だけでなく、東北地方でも広く栽培され、山田錦、五百万石に次ぐ生産量第3位の品種ですが、倒伏しやすいことや近年は各地のオリジナルの品種が台頭していることで、減少傾向にあると言います。キレが良く、なめらかでさっぱりとした味わいが特徴です。
日本最古の酒米「雄町」
岡山県高島村の岸本甚蔵が伯耆国大山参詣の帰りに持ち帰った稲穂をもとに、1866年に選抜・改良されて以来、100年以上にわたって栽培されたお米。100年以上にわたって途絶えず栽培されてきた、山田錦や五百万石の祖先にあたり、実は存在する酒米の約3分の2は雄町の系統を注いでいると言われています。
酒米として高く評価され、大正時代から岡山県を中心に栽培されていましたが、稲穂が高く、耐倒伏性、耐病性が弱いことから、次第に栽培者が減少していきましたが、その後岡山県で雄町復活が推奨され、生産量は増加傾向にあります。心白発現率が高く、軟質で眼状の大きな心白をもつ傾向にあるため、高精米しにくく吟醸酒造りには向いていません。しかし、雄町ならではの濃厚で深みのある味わいが特徴的で、「オマチスト」と呼ばれるほど雄町のファンになる方や、雄町をきっかけにワインから日本酒に興味を持たれる方もいらっしゃいます。
筆者も大学卒業前の瀬戸内海ひとり旅で雄町米を見るために、岡山県雄町へ。ですが3月初旬ということもあり、稲穂は刈り取られておりましたが、「ここが雄町発祥の地….!」とわくわくした気持ちになった瞬間は今でも鮮明に覚えています。
ザ・メイドイン山形 「出羽燦々」
山形県で1995年に「美山錦」と「華吹雪」を交配し、開発された品種です。山形県産の高品質で個性的な酒米を目指して開発され、山形県の奨励品種に指定されている酒米です。吸水性や大粒で心白発現率が高いことが特徴で、軟らかく溶けやすいお米のため、味にインパクトを残しつつ、さらっとした飲み口を醸してくれるなど、表現の幅が豊かな酒米です。
日本酒に使われる飯米3選
一般的に飯米はお酒造りに向いているとは言われていませんが、地産地消の取り組みや昔ながら飯米を醸している地域もあります。飯米・酒米両方の用途で愛されている飯米を3つご紹介します。
幻のお米 「亀の尾」
漫画「夏子の酒」のモデルとなった幻のお米。1893年の冷害で不作だった年、山形県の農家、阿部亀治が神社参りに行く途中、3本だけ稲穂が元気に育っているのを発見し、4年の歳月を経て誕生した飯米です。また、コシヒカリ、あきたこまち、つや姫などの有名なお米のルーツも亀の尾ですが、耐倒伏性が弱く、稲熱病にかかりやすいため、収穫量も減少していき一度はこの世から姿を消してしまいました。しかし、新潟県長岡市の久須美酒造により、既に幻と化していた亀の尾の種籾を探し出し、有機栽培して収穫を復活させることに成功しました。
愛媛で愛され60年 「松山三井」
愛媛県で飯米として愛されながらも、昔から酒米としても同県で使われていた1953年生まれの品種。ご飯米にしてはアミロース(粘り気が少なく硬めのご飯にする役割を持つ)の割合が高く、タンパク質が少ないため、酢合わせがよく、飯米では特に寿司米にも向いていたり、その上大粒で砕けにくいため、元々酒造りとしても最適な条件が揃っています。ちなみに、松山三井をベースに、さらに酒造りに特化したお米の誕生のために開発されたのが後の「しずく媛」といいます。
高知県生まれの願いこもった 「土佐錦」
高知県は、もともと酒造りが盛んな地域でしたが、その原料米はほぼ県外産のお米に依存していました。そのため、高知県内の自給を目的に、酒造りに適性なお米、中国55号と中系419を交配して「普及した地域に錦を飾って欲しい」という願いをこめて命名されたお米が土佐錦です。タンパク質が少なく、酸の少ない淡麗辛口の味わいに仕上がるといわれています。お燗としても美味しくいただけますので、55度の熱燗にした土佐錦のお酒と、カツオの相性はばっちりです。
いかがでしたでしょうか。この記事を通して、普段私たちが食べているお米と日本酒で使われているお米の違いを知ったり、そのお米のストーリーを読み解いてきたことで、少しでも日本酒に使われているお米の面白さを感じていただけたら幸いです。
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