高温山廃仕込みと熟成のスペシャリスト、木戸泉酒造への訪問記。

各地の日本酒

私が木戸泉さんを知ったのはつい最近のことで、7月中旬、いつもお世話になっている酒屋さんから「すごいのが入ったよ!」と教えてくださり仕事終わりに酒屋さんへ駆け込み、試しにいただいた事がきっかけでした。冷蔵庫の中でワインのような高級感のある出立ちをまとい、造りも乳酸独特のキレが特徴の「山廃仕込み」で近寄り難い雰囲気…と思いきや、裏ラベルに描かれた遊び心満載のメッセージから感じずにはいられない、茶目っ気とお知り合い感で一気に親近感を抱きました。いただく前から心を掴んだこのお酒、どんなお人柄の方々が、どんな思いを持って醸造されているのか既に気になり始めていました。

お味はと言いますと、品のある高貴な「山廃」…というより、ワインにも似通っているような…。(ワインはあまり飲まないのですが、「高貴」で印象抱きやすいのは日本酒よりワインかなと…まだまだ表現が乏しくて悔しいです…!笑)山廃仕込みならではの刺々しい酸から角がとれた優しさも、このお酒から感じました。酒屋さんは開栓したてに砂糖なしの梅酒の味を感じたとのこと。一味加えたシソのミートローフや、いわしの生姜煮・フライなどとも相性良いとアドバイスをいただきました。梅酒までは正直想像できなかったのですが、いつものような手書きで「ホタテバター」や「麻婆茄子」黄色いタグをかけられた瓶を見て、私も中華と言えば…という考えで、Cook Doのチンジャオロースと合わせてみました。ううむ…ソースは合わないわけではないけど、特にお米と合わせると正直えぐみが増す。

その後、再チャレンジ。パッと思いつきで「独特な甘みがありつつ、キレッとした複雑な香りのあるシナモンを使った菓子パンとかどうかな?」と思い、仕事終わりに近くのスーパーで買ったアップルパイと試してみると、本当によく合いました。シナモン特有の香りをそっと引き立てるように乳酸の優しいキレが被さり、オシャレな味がする。。音楽のジャンルで例えると、シャンソンだったり、1950年代ジャズの洒落っ気。ジブリ「紅の豚」のジーナ(加藤登紀子)が歌う「さくらんぼの実る頃」や、Ella Fitzgerald の「Bewitched, Bothered, And Bewildered」が、このお酒とアップルパイをいただくこの空間によく合うと思います。この先のブログを、これらの曲と合わせてお読みいただくのはいかがでしょうか。

そして、酒屋さんの木戸泉酒造さんとのご縁をいただき、曇天が続く今日この頃にパッと一日中晴れた先週末、私は千葉県いすみ市の木戸泉酒造さんの社長ご夫妻を訪ねました。

東京から約2時間。酒蔵は九十九里浜の南ある港町、大原駅から徒歩5分程歩いた場所にあります。約束の時間より1時間早く到着したので、お昼ごはんを食べに行きます。駅から8分歩いたお店をチェックしていたのですが、この日に限り貸切だったので、引き返してもう1つ気になっていた駅前の喫茶店へ。腰が低くく素朴な店員さんに席を案内していただいた後、テーブルの角奥で彼とマダムな女性が木戸泉酒造の銘柄「afs」を片手にお話ししているのが真っ先に目に映りました。これから伺うところの銘柄の話を前に、ソワソワしながら気持ちが先立ちマダムに話しかける。「今日、その酒蔵さんに伺うんです。」と私。いきなり話しかけられキョトンとされましたが、彼女の方から私の席までお越しくださり、木戸泉さんのお話から、昔から日本酒やワインと縁があったことなど、短い時間でいろんなお話をしてくださいました。そうこうしているうちに、待ち合わせ時刻まであと10分。店員さんが作ってくれたあさりのペペロンチーノを食べ終え、マダムとまた今度大原に伺う時必ず連絡する約束をかわし、木戸泉酒造さんに向かいます。

車通りに沿ってまっすぐ歩くこと5分。大きな杉玉が目印の木戸泉さん。土日は定休日と書いてあったから、どこから入れば良いか入り口でウロウロしていたところ、にこやかに私の名前を呼ぶ声に振り向くと、爽やかな青のワンピースを着た、社長夫人が…!若々しくて気さくに酒蔵の中に迎えてくれる振る舞いは、KIDOIZUMI #55に書かれた文体そのものでした。(やはり、あの裏ラベルのコメントは彼女が書いたのだそう。)五代目蔵元社長兼杜氏・庄司勇人さんも中で迎えてくれて「ブログ、見ました。すごいですね。」とのありがたいお言葉…。まだ数記事しか執筆しておらず恐縮ですが、これからも頑張ります…!早速、社長さん直々に案内され、酒蔵の中へ。ほ、本当にお邪魔します。

最初に案内していただいた場所は、お米を洗ったり、蒸すところ。1枚目の写真は甑(こしき)と呼ばれる、お米を蒸すために使われる道具で、2枚目の釜戸に甑を置いて蒸します。木製の甑を使っているのは全国的にもごくわずかで、大原近くに長くお付き合いされてる木樽を作る職人さんが作っているのだそう。使用しているお米は山田錦、華吹雪、ささにしき、ひとめぼれ。山田錦は筆者の地元、埼玉で栽培されているらしく、ちょっと嬉しい…。

お次は酒母を仕込むタンク。木戸泉酒造さんの銘柄の1つ、「afs」というお酒は、日本酒を生み出す源となる酒母だけを使う一段仕込みをしています(3回に分けてアルコール発酵させる三段仕込みが一般的)。さらに、ここの酒造ならではの特徴は、「高温山廃仕込み」酒母作りに必要な乳酸菌を、自然の力で1から育て、乳酸を得る方法の1つが「山廃」と呼ばれる仕込み方法です。山廃仕込みは時間と手間ひまをかけるため、多くの酒造は既に作られた人工乳酸を使用します。そんな山廃仕込みは一般的に低温で行うのですが、ここは全ての日本酒を55℃の高温山廃で仕込みます。

55度という温度なのは、お米のでんぷんが糖化するのを促進できる最適な温度でありつつ、熱殺菌ができてその後に必要な微生物だけをとりこめるからです。全ての酒造りの工程を自然の原理のみで行う背景には、蔵元3代目から続く思いにあります。戦後の高度経済成長期、日本酒は劣化しないよう人の健康を害す防腐剤が多く使われていたこと、また、昔から海外を視野に入れていた3代目蔵元は、船でのみ海外輸出ができず、品質が保てないことに課題を持っていたため、「自然のものだけを扱い、劣化せず、熟成する酒造り」を今もなお、60年以上続けています。

さらに奥へ進むと、醪(もろみ)造りに使う大きなタンクが並ぶ大きなお部屋へ。ここに酒母、蒸し米、麹、水を入れて3週間発酵させて、絞って日本酒ってお酒が出来上がります。2枚目の、タンクにカバーされているものは熟成中のお酒。タンクの中に実際お酒が入っています。蔵の中を案内していただいた後は、別館で試飲させていただくことに…。

扉を開くと、古酒がお出迎え…!1974年から毎年ごとに常温熟成でされ続けている日本酒がズラリ。思わず一人静かにお辞儀してしまいます。そして、奥に保管されていた日本酒を着々とテーブルに並べ、「お好きにどうぞ。」と社長さん。と、頭真っ白な私。少しの硬直しながら最初にグラスに注いだ銘柄は、特別純米 無濾過生原酒の-5℃で低温熟成させた「白玉香」。いつもお世話になっている酒屋さんで販売しているけど、手に取らなかった銘柄の1つ。頂いてみると、なんでもっと早く購入しなかったんだ、と後悔するくらい美味しかった…。山廃の酸はほのかに香り、丸みのある山田錦の甘みもあった。冷やで飲んでも美味しいし、少しあったかくしていただくのも良さそう。緊張しつつ自分なりに味覚に神経を持っていきながらいただいていると社長の奥様も来てくださいました。パッと明るい若々しい女性。私が初めて木戸泉さんを知るきっかけとなったKIDOIZUMI #55の成り立ちも、話のネタ程度に持ってきた日本酒の種類と食べ合わせの図解イラストの話も、お二人の馴れ初めもたくさんお話ししました。質実剛健で酒造りに確かな芯を持った社長さんと、彼女との時々垣間見える仲睦まじさや、我が子のように日本酒を互いに語る姿に私の緊張感も程よく溶けていく。最後は、奥様が近くのお店で購入されたお惣菜やアイスを持ってきてくださり、何の木戸泉のお酒と食べ物が合うかを無邪気に熱く語りながら、幸せな時間を過ごさせていただきました。AFS Stratae(ストレーター)2018と、ごぼうサラダの相性の良さを、私は一生忘れません。

ごぼうサラダ
スーパーで買える、213円(税込)のごぼうサラダと、AFS Stratae 2018の感動の出会いを私は忘れません。

日の光に照らされ淡々と過ぎていく田園風景に、今日の終わりを愛しく感じながら家に帰ります。木戸泉酒造の皆様、本当に本当にありがとうございました…!また近いうちに会いに行きます。

帰りの道中に広がる田園風景

木戸泉酒造 公式サイト:https://www.kidoizumi.jp/

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